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2011年6月11日 (土)

福島県下の土壌中の放射性ストロンチウムの測定結果

福島県下の農地の土壌放射能地図
を描きながらずっと気がかりだったのは、放射性セシウムといっしょに必ず存在するはずの放射性ストロンチウムが今回の原発事故ではどのくらいたくさん放出されていたのかということでした。放射性ストロンチウムの測定結果は4月中旬に土壌3サンプルと植物(葉もの野菜)4サンプルの分が公表されて以来ずっと発表がありませんでしたが、6月8日付けで福島県下11カ所の土壌からストロンチウム検出
と新聞で報じられたことから、これまで公表された土壌中のストロンチウムの測定値をこの機会に全部集めて1枚の地図にまとめてみました。
こちらです

使用データは以下のとおりです。
元データ1:東京電力株式会社福島第1原子力発電所の事故に係る陸土及び植物の放射性ストロンチウム分析結果
(平成23年4月12日公表分3カ所、試料採取日3月16日〜3月17日)
元データ2:土壌モニタリングの測定結果(平成23年5月31日までの測定結果)
(平成23年6月9日公表分8カ所、試料採取日4月10日〜5月6日。5月10日以降採取の試料については測定の結果いずれも「不検出」判定。それ以前の採取分については順次確認中)
元データ3:環境試料の測定結果(平成23年5月31日までの測定結果)
(平成23年6月9日公表分3カ所、試料採取日3月21日〜4月3日。掲載の陸水、雑草、陸土試料は5月7日以降採取分について測定の結果いずれも「不検出」判定。それ以前の採取分については順次確認中)
[2011.9.1追記]
元データファイル3件のリンク切れを修正しました。現在環境試料については5月31日まで採取分の全検体の分析結果が掲載されており、放射性ストロンチウムの新たな検出はありません。土壌サンプリング結果については追加掲載はありません。その後6月1日〜8月31日に得られた測定結果のまとめファイルがこちらのページに公開されていますが、こちらでも放射性ストロンチウムの新たな検出はありません。

注:文部科学省の公表する測定結果一覧表で「131I」「137Cs」などと放射性核種の名前がはじめからついている欄に書いてあるのはγ線の測定だけで検出できるもの、「その他検出された核種」という欄に書いてあるのはγ線測定では検出できず、改めてβ線(あるいはα線)の測定を行ってはじめて検出できるものです。放射性ストロンチウムは検出にβ線測定が必要な放射性物質の代表です。

新聞発表とNHK科学文化部ブログの紹介記事を見ただけではよもや新公開の11カ所分のデータが2つのファイル(元データ2と3)に分けて公開されていようとは夢にも思わず、1時間近く振り回されるはめに。@Kontan_Bigcatさん、ご教示ありがとうございました。

地図表示に必要な測定点の緯度経度情報は以下のものを使用しました。
緯度経度情報1:陸上の測定ポイントの緯度経度等位置に関する情報
(平成23年6月3日公表。モニタリングカーによる空間線量率の測定点の緯度経度情報。20 km以遠の分。リンク移動後赤字箇所に修正あり)
緯度経度情報2:土壌モニタリングの測定結果(平成23年6月9日10時00分現在)
[2011.9.1.追記]
緯度経度情報1のリンク切れを修正しました。緯度経度情報2は下記のまとめファイルに移動されていました。
土壌モニタリングの測定結果(平成23年6月1日~平成23年8月31日までの測定結果)

文部科学省による土壌モニタリングでは、土壌試料の採取と平行してモニタリングカーを使った空間線量率測定が行われており、測定結果一覧表の備考欄には土壌採取位置に一番近い空間線量率の測定点の番号が記載されています(土壌試料の採取場所の番号は空間線量率の測定点の番号と違ってハイフンが入っているので区別できます)。元データ2の場合は備考欄の測定点番号に対応する緯度経度を「緯度経度情報1」から読み取って地図化に使用しました。
これに対し、環境試料の測定結果には空間線量率の測定点番号が併記されていません。元データ3の3カ所のうち、たまたま1カ所(南相馬市原町区高見町)だけは「緯度経度情報2」で測定結果が報告されていたため「緯度経度情報1」で緯度経度を確認できましたが、残り2カ所は高橋登史朗さん(@toshirot)のGoogleを利用した住所→緯度経度取得ページを利用させていただきました。
注:地図化に先立って緯度経度情報1を利用したあと、誤って下記の3カ所の土壌採取地点の所在地を空間線量率の測定点の所在地で置き換えてしまいました。従って以下の土壌採取地点の所在地の地図上の表記(右側)は元データファイル(左側)と異なります。
田村市常葉町山根→田村市常葉町山根鹿島
双葉郡広野町下北迫→双葉郡広野町下北迫苗代替
伊達郡川俣町山木屋→伊達郡川俣町山木屋大洪

今回の地図には、地表から5 cmまでの表層土中のストロンチウム90(Sr-90)量を土の重量1 kgあたりで表示しています。最も早い時期に試料採取が行われた元データ1の3カ所分(試料採取日3月16日〜3月17日)だけは、土の湿重量あたりの測定値であることが明記されていますが、元データ2と3には湿重量、乾燥重量いずれで計算したか記載はありません。しかし他の固形試料の測定結果(ウラン、プルトニウムを含む)でわざわざ湿重量あたりと明記した報告は見当たらず、湿重量ベースで測定が行われたのは後にも先にも元データ1だけだった可能性が考えられます。従って、元データ2と3の測定値は乾燥重量ベースと見て差し支えないでしょう。
注:「放射性ストロンチウム分析法」(写真付きの分析手順解説はこちら。画面左のリンクを上から下へと順番にクリックして下さい。データが出るまでに時間がかかる理由をおわかりいただけると思います)によれば、土壌中のストロンチウム分析の出発試料は「乾燥細土」とされています。つまりどのみち試料を一旦乾燥してからでないと測定できないのです。採取した土壌試料から植物の根、小石などを除いて一昼夜乾燥(105~110℃)したものが「乾土」、これをさらに乳鉢で細かく砕き、2 mmメッシュのふるいを通したものが「乾燥細土」(詳しくはこちら)。乾土になった段階で重量(乾土重量)を測定し、これを乾燥開始直前に測定しておいた湿重量で割れば乾土率を計算でき、乾土率が出れば湿重量あたりの測定結果を乾燥重量あたりに換算することができるのですけれど(「緊急時におけるγ線スペクトル解析法」 p.9)、元データ1をとったときだけ乾燥前後の重量測定を忘れたのでしょうか?

地図に表示した測定地点14カ所のすべてから放射性ストロンチウム(Sr−89とSr-90)が検出されました(半減期はSr−89が約50日、Sr-90が約28.9年)。
ピンの頭に黒丸が入っているのは、イネの作付け制限指示地域内の測定点です(確認はこちらこちらで行いました)。作付け制限指示地域外は14カ所中3カ所(福島市、二本松市、南相馬市原町区大原台畑)で、いずれも4月中に試料採取が行われたところです。確認中の試料(5月9日以前に採取した土壌試料と、5月6日以前に採取した環境試料)の測定結果がこれから出てくれば、どの程度の距離までストロンチウムが飛散したかわかってくるでしょう。文部科学省は奥羽山脈の西側にはこれまで全くと言っていいほど測定点を設けたことがありませんが、飛散範囲を突き止める上で奥羽山脈の西側からイネの作付け制限判断のために採取された土壌試料の再分析は必須。あるいは現在全国から集まった研究者が進めている県下全域プラス隣接県2400カ所の土壌調査でも、ストロンチウムをきちんと見るべし。また食品中のストロンチウム、特に魚のストロンチウムの分析が今後のもうひとつの重点課題。

測定値の範囲は最小値1.3 Bq/kg(川内村)、最大値250 Bq/kg(浪江町赤宇木椚平)で、2ケタ以上の測定値が出た4カ所はいずれもイネの作付け制限指示地域内でした(浪江町、飯舘村、川俣町)。「放射性ストロンチウム分析法」のp.102にある「付録3 環境試料中のストロンチウム90 濃度」という表には、平成13年度(2001年4月〜2002年3月)に日本各地で採取された環境試料中のストロンチウム90の測定値がまとめられていますが、今回と同じ深さ5 cmまでの土壌中の測定値は平均が2.1 Bq/kg乾土(48検体分、範囲は0.020 ~ 9.2 Bq/kg乾土、「範囲の最小値には不検出の値も含まれる」との但し書きから不検出判定の場合の検出限界値を最小値として扱ったことがわかる)となっていますので、今回の測定値が1 - 2 Bq/kg程度のところは「あることは確かだが量は多くない」というレベルといえるでしょう。

原子力事故後の放射性ストロンチウムの分析で一番注目を集めるのは、一緒に放出される放射性セシウム、とくにセシウムの同位体の中で半減期が一番長い(約30年)セシウム137(Cs-137)との比率です。各測定地点のSr-90とCs-137の割合は、最大値が0.14%(浪江町津島、試料採取日3月17日)、最小値が0.01%(葛尾村、試料採取日5月3日)、14地点の平均値は0.047%となりました。1986年4月のチェルノブイリ事故後のSr-90/Cs-137比が約10%だったのと比べるとはるかに小さな数字です。
【2011.6.14追記】
東京電力が2011.6.12付けで発表した福島第一原発付近の海水中の放射性同位元素分析結果
いずれも試料採取日は5/16。海水中のSr-90/Cs-137比は土壌中(3/15に大気中に大量放出された後雨とともに地上に落ちてきた分が大部分と考えられる)よりはるかに高く、チェルノブイリ事故後の比を超える測定点もあります(測定値はいずれもBq/L単位)。
1-4号機取水口内北側:1600/17000→9.41%
2号機スクリーン海水(シルトフェンス内側):5100/19000→26.8%
3号機スクリーン海水(シルトフェンス内側):7300/66000→11.0%
監視継続とともに沖合でも測定が必要でしょう。放射性ストロンチウムの水産物への影響については、三重大・勝川先生の解説をぜひご覧下さい。

(付記1)日本国内で食品中の放射性セシウムの規制が初めて実際に行われたのは、チェルノブイリ事故後に(ヨーロッパからの)輸入食品を規制するため放射性セシウム総量(セシウム134とセシウム137の合計)の上限を全食品一律370 Bq/kgと決めたときですが、このとき(実測が難しい)ストロンチウムには独自の規制値を設けず、チェルノブイリ事故後に測定された比率をもとにセシウム137には常にその10%の量のストロンチウム90が共存すると仮定し、放射性ストロンチウムの影響を放射性セシウムの影響に含めて規制する形で規制上限値が決められました。この考え方は、原子力安全委員会の指針「原子力発電所等周辺の防災対策について」の中の「飲食物摂取制限の指標」の項が1998年11月に改訂され(*)、放射性セシウムの摂取制限指標が新しく設けられたときもそのまま引き継がれています。この「飲食物摂取制限の指標」が、食品衛生法上の暫定規制値として平成23年3月17日以降現在に至るまで使われているわけです。
*)このときのいきさつと、摂取制限の指標の設定根拠が次の論文にまとめられており、無料で読むことができます。
須賀新一, 市川龍資. 防災指針における飲食物摂取制限指標の改定について. 保健物理 35(4), 449~466(2000)
ただこの1998年の改訂のとき、放射性セシウムの摂取制限指標の制定にあたった人たちは、輸入食品については1986年以降放射性セシウムの規制基準値がすでに存在し、国内で適用されていたことをご存じなかったようで、上の論文には輸入食品のセシウム規制基準の話は全く出てきません。私ならそういう基準の存在を知ったら当然見比べますけれど、(当時の)厚生省の決めた食品の基準なんて我関せずという了見が通っていたとすれば、縦割りもここに極まれリです。

(付記2)食品中の放射性ストロンチウムをセシウムと抱き合わせにせず、独自基準で規制している国もあります。
米国FDAの輸入食品用基準(Sr-90用):160 Bq/kg
欧州原子力共同体(EURATOM)の原子力事故後の食品中許容限度(Sr-90用、ただし平常時用ではなくあくまで緊急時用の基準):乳幼児用食品 75 Bq/kg、乳製品と液体食品(飲用水を含む)125 Bq/kg、その他の食品750 Bq/kg

(付記3)
生物の体の中でのストロンチウムがカルシウムと似た振る舞いをすることはよく知られ、カルシウムと入れ替わって骨に蓄積されβ線を放出する内部被曝源として恐れられていますが、土壌中のふるまいについて、日本土壌肥料学会がまとめを出しています。放射性セシウムが土壌中の粘土鉱物である雲母と結合して足止めされ、地表から下に向かってなかなか移動しない(詳しくはこちら)のに対し、放射性ストロンチウムは土壌中に足止めする物質がないので水に溶けて下へと広がりやすいという違いがあります。知っておくとよいことは、ストロンチウムの分布(セシウムと似ている)がイネの中では部分ごとに大きく違うことです。米として食べられる部分(可食部)を1とするとヌカで29倍、モミガラで24倍、ワラで100倍となります。玄米を精米して白米にすると、ストロンチウムの量を0.5%/2.3% = 0.21、つまり約1/5に減らすことができるのです。またキャベツの場合、「玉」を作らない外側の葉と内側の巻いて「玉」になった部分でストロンチウムの存在量を比べると、外側91対内側9という報告もあります。外側の葉を捨てて中を食べればいいことになります。ただし、捨てた外側の葉をウサギにやるのはやめたほうがいいでしょう。

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