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2011年6月24日 (金)

福島県会津地方の土壌放射能地図

福島県下の農地の土壌放射能地図を描いた後、ご覧いただいた柳澤さまから会津坂下町と会津美里町で農地の土壌放射能の独自調査が行われ、結果が公表されていることをコメントでご教示いただきました。そこで前回の地図に載せることができなかった県による調査結果とあわせて、福島県の西半分を占める会津地方の農地の土壌放射能地図を追加作成しようと決めて準備していたのですが、準備中に福島県下の土壌中の放射性ストロンチウムの測定結果が公表され、こちらの地図化を優先したため完成が遅れました。ここにお詫びとともに公開させていただきます。地元の事情に通じた方の目から見落としや思違いなどご指摘いただければ幸いに存じます。

使用データは以下の通りです。
元データ1(福島県農林水産部):国の協力を得て行った農用地土壌中の放射性物質の調査結果について(平成23年4月8日公表分7カ所、試料採取日3月29日・4月1日)
元データ2(福島県農林水産部):水田土壌中の放射性物質の調査結果について(平成23年5月10日公表分3カ所、試料採取日記載なし)
元データ3(会津坂下町独自調査):会津坂下町の農地における放射性物質の測定結果
(15カ所、試料採取日4月12日)
元データ4(会津美里町独自調査):農用地土壌中の放射性物質の測定結果について(6カ所、試料採取日4月18日・28日)
注:福島県は東から順に浜通り(阿武隈高地と太平洋の間)、中通り(奥羽山脈と阿武隈高地の間)、会津(奥羽山脈の西側)の3つの地域に分かれますが、元データ1の調査対象(喜多方市→会津坂下町→会津若松市→会津美里町)は会津地域の中心地である会津盆地を北の端から南の端まで順にカバーするよう選ばれています。元データ1の調査対象のうち、会津盆地の西寄りに位置する2つの町がその後行った独自調査結果が元データ3と4です。元データ2は積雪のため4月中に調査できなかった西部地域を雪解け後の5月に追加調査した結果で、これにより会津地域全市町村から少なくとも1カ所の土壌中セシウム量の測定値が揃ったことになります。
注2:元データ4を公表している会津美里町のホームページには、「福島県並びに福島県が農林水産省の協力を得て行なった町内の水田土壌における放射性物質の測定結果」として次の2つの測定値が同時に公開されています。どちらも水田の測定結果で数値は左からセシウム134, セシウム137、合計の順。単位はいずれもBq/kgで土の乾燥重量あたりです。
64, 73, 137(3月31日採取)
312, 348, 660(4月1日採取)
3月31日の分は福島県農林水産部が4月6日付けで「会津美里町藤家舘村」の分として公表済みで前回の地図に掲載。4月1日の分が元データ1に記載され、今回新しく地図化した分です。これまで福島県農林水産部が公表した測定値はどれも測定点の所在地が字(あざ)まできちんと記載されているのに、農林水産省がかかわった元データ1だけが所在地の記載を市町村名で止めているのは地図描き人として腹立たしい限りです。

地図化に必要な緯度経度情報の取得はすべて、高橋登史朗さん(@toshirot)のGoogleを利用した住所→緯度経度取得ページを利用させていただきました。元データ1と2では測定点の所在地が市町村名までしか記載されていないため、緯度経度情報を取得させると市町村役場の所在地の緯度経度が表示され、やむなくこれで代用しました。元データ4では、測定点の所在地が「高田」「本郷」「新鶴」とだけ書いてありましたが、会津美里町は会津高田町、会津本郷町、新鶴村の旧3町村が合併してできた町で、旧町村役場が今も分庁舎として使われていることを会津美里町ホームページで確認しましたので、それぞれの測定点の所在地は3つの分庁舎
会津美里町高田庁舎:福島県大沼郡会津美里町字宮北3163
会津美里町本郷庁舎:福島県大沼郡会津美里町字北川原41
会津美里町新鶴庁舎:福島県大沼郡会津美里町鶴野辺字広町740
と同じ字(あざ)の範囲内だと想定して緯度経度情報を取得しています。

今回は同じ1組の測定結果をもとに地図を全部で3枚作りました。
福島県会津地方の土壌放射能地図1は前回の福島県下の農地の土壌放射能地図(県下全域を対象、データ公表日別に3枚作成)と同じく地表から15 5 cmまでの表層土中の放射性セシウム量(Cs-134とCs-137の合計)を土の乾燥重量1 kgあたりで表示し、測定値の大小によるピンの色分けも前回と全く同じにしてあります。
福島県会津地方の土壌放射能地図2は、地表から15 5 cmまでの表層土中の放射性セシウム量(Cs-134とCs-137の合計)を土の乾燥重量1 kgあたりで表示し、独自調査が行われた町の中の測定値の違いを見やすくするため、ピンの色分けの目盛りのみ変更しています。どちらの地図でも、町による独自調査の測定点にはピンの頭に黒点を入れてあります。
さらに参考のため、前回の地図に掲載済みの会津地域の市町村(測定値はいずれも1000 Bq/kg未満)
4月6日公表分:会津若松市(北会津町小松)、磐梯町、喜多方市(熱塩加納町、慶徳町)、北塩原村、西会津町、会津坂下町(五ノ併)、湯川村、会津美里町(藤家舘村)、柳津町
4月12日公表分:会津若松市(湊町)、猪苗代町、会津坂下町(見明)、南会津町、下郷町、只見町
4月22日公表分(いわき市の水田1カ所以外すべて畑の調査結果):会津坂下町(大字中泉、見明)、桧枝岐村
のデータを追加した福島県会津地方の土壌放射能地図3も描いてみました。地表から15 5 cmまでの表層土中の放射性セシウム量(Cs-134とCs-137の合計)を土の乾燥重量1 kgあたりで表示し、ピンの色分けの目盛りは「福島県会津地方の土壌放射能地図2」と同じです。

[2011.8.27追記]
農林水産省の指示で行われた農地の土壌放射線調査では、文部科学省の調査と異なり1 kgの土壌試料を深さ5 cmではなく15 cmまで掘って採取していたことを下記資料(Q58の回答)により確認しましたので、地図の説明を訂正しました。
「がんばろうふくしま!」農業技術情報(第2号)原子力災害に関する農作物の技術対策Q&A


奥羽山脈の西側にある会津地域の土壌中の放射性セシウム量測定値は、奥羽山脈の東側(浜通り、中通り)と比べてずっと低く、喜多方市内の1カ所(1977 Bq/kg)を除いて1000 Bq/kgを超える測定点はありません。従ってイネの作付け制限基準である5000 Bq/kgを超える地域は奥羽山脈の西側からは1カ所も出ていないことになります。
注:奥羽山脈の西側の放射線測定値が東側に比べてはるかに低い傾向は、京都大学原子炉実験所グループが開発した走行サーベイシステムKURAMA(*)による福島県下の空間線量率測定結果(5月9日〜5月22日測定)からも読み取れます。1枚目の地図の中央にある猪苗代湖から南向きに走っている黒い線が郡山市と会津若松市の境界線で、この線を南側に延長したものが奥羽山脈の南方向の稜線にほぼ一致します。猪苗代湖からほぼ東向きに走る短い黒い線は猪苗代町と郡山市の境界線で、この線がやがて北向きに曲がったあとをそのまま北へたどり続けると奥羽山脈の北方向の稜線にほぼ一致します。
*)測定装置を自動車に積み込み、道路を走りながら空間線量率(空気中で測定した放射線の強さ)を測定し、同時に位置情報も記録して地図に表示。自動車が入れないところはどうしても測定から漏れてしまう欠点がありますが、移動しながら短い時間に広い範囲を測定することができる上、道路沿いであれば非常にきめ細かな測定ができるため、未知のホットスポットの検出にも威力を発揮すると期待されています。

2011年3月19日〜3月22日、福島県下の原乳(ウシから搾ったままの牛乳をこういいます)の放射能汚染が一番激しかった時期の測定値をまとめた牛乳の放射線地図(@satoru.netの矢野様、ありがとうございました)では、奥羽山脈の西側から検出された放射能の測定値は3月19日に喜多方市内で採取した原乳のヨウ素131=96 Bq/Lが最高で、セシウム134とセシウム137は一貫して不検出でした。その後、3月28日以降週1回の検査が続けられた際も、会津地域の原乳は3月28日に喜多方市内で採取した原乳からヨウ素131=10 Bq/Lを検出した時を除いて一貫してヨウ素、セシウムとも不検出が続き、4月8日には会津地域で酪農が行われている7つの市と町(喜多方市、磐梯町、猪苗代町、三島町、会津美里町、下郷町、南会津町)(**)について原乳の出荷制限が解除されました。現在もヨウ素、セシウムとも不検出が続いています(茨城県の酪農家@sdfmanさんのつぶやき 福島&茨城産牛乳がND(不検出)な理由)。食品流通構造改善促進機構がボランティアで公開しているデータベース「食品の放射能検査データ」(ローマ字の"yasaikensa"でググればトップに出てきます)で「検索」ボタンを押して条件指定ページに移動し「産地=福島県、品目=乳、採取日=すべて、公表日=すべて」と指定して「検索」ボタンを押せば、最初の1回から最新まですべてのデータを日付順に見ることができます。このデータベースは6月に入って大幅にパワーアップされ、「地図上で分布を見る」ボタンを押すと測定値が地図上に表示され、地図上の点をクリックすると産地ごとの時間変化のグラフが出てくるようになりました。5月の連休あけから稼働中の「出荷制限のあった地域と品目」のページとあわせて、産地ごとの実際の測定値の確認、特に出荷制限がかかって解除された産地の追跡調査にぜひご利用ください。
**)磐梯町と猪苗代町は猪苗代湖の北側、喜多方市と会津美里町は会津盆地の南と北の端にあたります。下郷町は会津若松市の南隣、南会津町は下郷町の南隣でどちらも奥羽山脈の西側の山腹にあります。三島町を除いて、いずれも会津地域の東半分に位置しています。

会津地域内で土壌放射能の最高値が出たのも、原乳の放射線測定値が最高を記録したのもどちらも喜多方市内という結果は、喜多方市の地形の特徴を考えれば理解できます。喜多方市は会津盆地の北の端に位置し、南側を除く三方を山に囲まれています(ちょっと京都に似ているかも)。奥羽山脈の稜線を東から西に越えて流れ込んできた放射性物質がそのあとどのように移動したにしても、平地と山裾の境目や山腹の傾斜地は吹きだまりになりやすい傾向が福島県下福島県外の農地の土壌放射線地図からうかがえます。元データ1で報告されている喜多方市内2カ所の農地(測定点の正確な位置は記載なし)の放射性セシウム総量の測定値(553 Bq/kgと1977Bq/kg)は前回地図化済みの2カ所(熱塩加納町加納139 Bq/kg、慶徳町新宮208 Bq/kg)よりもはるかに高く、地域内の測定点間の変動は独自調査が行われた会津坂下町(4月6日公表の県の調査で868 Bq/kgを記録。独自調査では最大720 Bq/kg、最小50 Bq/kg以下。この50が定量限界値だったか検出限界値だったか記載がありませんが、検出限界値が50 Bq/kg以下だったとすればちょっとずさん)や会津美里町(最大値950 Bq/kg、最小値50 Bq/kg)より大きいので、測定点を増やして独自調査をすべきはむしろ喜多方市ではなかろうかという気がします。

雪解け後に追加調査が行われた会津地方西部の3カ所の測定点(三島町、金山町、昭和町)はいずれも山の間を流れる川の岸に沿った平地にありますが、そのうち最高の測定値(628 Bq/kg)を記録した昭和町の測定点では、この平地の幅が3カ所のうち一番狭く、川岸の近くまで山が迫っていることがGoogle Mapの表示を航空写真に切り替えて拡大表示するとよくわかります。狭い谷間は、空気の流れに乗って入り込んだ放射性物質の吹きだまりができやすい場所だったと考えられます。

現在、文部科学省が土壌汚染マップの作成を目指して福島原発から80 kmの範囲は2 km四方、80 kmから100 kmの範囲は10 km四方に1カ所の測定点を設定し、福島県下と周辺地域約2200カ所で土壌試料の採取と放射線測定を進めていますが(対象地域とメッシュ設定はこの資料の5ページ目)「実際には50 m離れただけで乾土1 kg当たりのセシウムの量が10倍以上も異なる地域があるから、2 kmメッシュでは目があらすぎる」「起伏のある地域ほどきめ細かく土壌調査をする必要がありそう」という現場の意見も(こちらこちら。ここで出てくる「文部省の土壌汚染マップ」とは文部科学省が米国エネルギー省(DOE)と共同実施した航空機計測結果に基づくこの地図(資料の2ページ目)のことです)。
注:総じて文部科学省は奥羽山脈の西側についてはなぜか放射線調査の測定点を設けたがらず、学校、幼稚園、保育園のグラウンドの測定すらやっていませんでした。今回の土壌調査は文部科学省による奥羽山脈の西側のはじめての調査になりますが、10 km四方に測定点1個は誰の目にも少ない。
注2:新聞が奥羽山脈の西側の会津若松市を含めた福島県下全域をカバーする放射線地図(一番始めのころは確かいわき市すら出ていなかった)を掲載するようになったのはようやく3月の末になってからだったように記憶していますが、それ以前はもっぱら文部科学省が公開するこういう感じの放射線地図をほとんどそのまま載せているばかりでした。震災発生以後の奥羽山脈の西側の状況、とりわけ東側との大きな違いが今に至るも全国レベルに十分伝わっていない原因の源の1つがこの地図の印象にあるのではないかと個人的には考えています。

会津地域は大気と土壌中の放射性物質の影響については奥羽山脈の東側と比べて少なくてすんでいる一方で、人による水質管理の手が全く入っていない川や湖(淡水)の受けた影響となると必ずしも小さいとは言えないことが@Kontan_BigCatさんの淡水魚・淡水水産物中のセシウムの放射能濃度地図を見るとよくわかります。特に磐梯山の北側の裏磐梯高原の湖の魚で高濃度のセシウムが検出されているのが目立ちます。檜原湖、小野川湖、秋元湖は1888年(明治21年)の磐梯山の噴火の時、山体崩壊により麓を流れていたいくつかの川が土砂でせき止められて出来た湖で、流れ込む川はあっても(秋元湖を除いて)流れ出す川がないため、上空から降った放射性物質が湖の水の中にとどまったままになっているのです。チェルノブイリ事故後の魚類への影響は、事故現場から遠く離れた海の魚よりもむしろ流れ出す川のない湖の魚で大きかったことがIAEAによる事故報告書に書かれています(三重大学・勝川俊雄先生のブログ記事「チェルノブイリ事故の魚類への影響」)。淡水魚は海産魚よりも栄養塩をため込みやすい性質を持っているため、カリウムと性質の似たセシウムを体内に取り込みやすいことも要注意です(勝川先生のブログ記事「水産物の放射性セシウム汚染の地理的な広がり」の後半)。基本的に川や湖で釣った魚は食べないこと。現在檜原湖、小野川湖、秋元湖の3つの湖とこれに流れ込む川に加え、(秋元湖から南に流れ出して猪苗代湖に注ぐ)長瀬川の上流で採れたヤマメ(養殖を除く)が6月17日付けで出荷停止になっており、これが6月23日現在で会津地方にかけられた唯一の出荷制限になっています。

淡水魚のセシウムの放射能濃度地図でもう1つ注目されるのは、南会津から喜多方まで会津盆地を南北に流れている阿賀川の魚の放射性セシウム量が、上流よりも中流域の会津若松市内で高くなっていることです。@nnistarさんの国・自治体による高さ1 m・0.5m計測を中心とした放射線量マップ(この地図の福島県会津地方のデータは福島県による学校、幼稚園、保育所のグラウンドの空間線量率測定値(高さ1 m、6/1-10測定分))でみると、会津盆地の測定値は会津地方の他の場所と比べてやや高めになっているので、大気中から川の水の中に落ちた放射性セシウムの量がその分多かったこと(水中に落ちた放射性セシウムは川底の砂の中の雲母に固く結合して足止めされている)がうかがえます。

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2011年6月11日 (土)

福島県下の土壌中の放射性ストロンチウムの測定結果

福島県下の農地の土壌放射能地図
を描きながらずっと気がかりだったのは、放射性セシウムといっしょに必ず存在するはずの放射性ストロンチウムが今回の原発事故ではどのくらいたくさん放出されていたのかということでした。放射性ストロンチウムの測定結果は4月中旬に土壌3サンプルと植物(葉もの野菜)4サンプルの分が公表されて以来ずっと発表がありませんでしたが、6月8日付けで福島県下11カ所の土壌からストロンチウム検出
と新聞で報じられたことから、これまで公表された土壌中のストロンチウムの測定値をこの機会に全部集めて1枚の地図にまとめてみました。
こちらです

使用データは以下のとおりです。
元データ1:東京電力株式会社福島第1原子力発電所の事故に係る陸土及び植物の放射性ストロンチウム分析結果
(平成23年4月12日公表分3カ所、試料採取日3月16日〜3月17日)
元データ2:土壌モニタリングの測定結果(平成23年5月31日までの測定結果)
(平成23年6月9日公表分8カ所、試料採取日4月10日〜5月6日。5月10日以降採取の試料については測定の結果いずれも「不検出」判定。それ以前の採取分については順次確認中)
元データ3:環境試料の測定結果(平成23年5月31日までの測定結果)
(平成23年6月9日公表分3カ所、試料採取日3月21日〜4月3日。掲載の陸水、雑草、陸土試料は5月7日以降採取分について測定の結果いずれも「不検出」判定。それ以前の採取分については順次確認中)
[2011.9.1追記]
元データファイル3件のリンク切れを修正しました。現在環境試料については5月31日まで採取分の全検体の分析結果が掲載されており、放射性ストロンチウムの新たな検出はありません。土壌サンプリング結果については追加掲載はありません。その後6月1日〜8月31日に得られた測定結果のまとめファイルがこちらのページに公開されていますが、こちらでも放射性ストロンチウムの新たな検出はありません。

注:文部科学省の公表する測定結果一覧表で「131I」「137Cs」などと放射性核種の名前がはじめからついている欄に書いてあるのはγ線の測定だけで検出できるもの、「その他検出された核種」という欄に書いてあるのはγ線測定では検出できず、改めてβ線(あるいはα線)の測定を行ってはじめて検出できるものです。放射性ストロンチウムは検出にβ線測定が必要な放射性物質の代表です。

新聞発表とNHK科学文化部ブログの紹介記事を見ただけではよもや新公開の11カ所分のデータが2つのファイル(元データ2と3)に分けて公開されていようとは夢にも思わず、1時間近く振り回されるはめに。@Kontan_Bigcatさん、ご教示ありがとうございました。

地図表示に必要な測定点の緯度経度情報は以下のものを使用しました。
緯度経度情報1:陸上の測定ポイントの緯度経度等位置に関する情報
(平成23年6月3日公表。モニタリングカーによる空間線量率の測定点の緯度経度情報。20 km以遠の分。リンク移動後赤字箇所に修正あり)
緯度経度情報2:土壌モニタリングの測定結果(平成23年6月9日10時00分現在)
[2011.9.1.追記]
緯度経度情報1のリンク切れを修正しました。緯度経度情報2は下記のまとめファイルに移動されていました。
土壌モニタリングの測定結果(平成23年6月1日~平成23年8月31日までの測定結果)

文部科学省による土壌モニタリングでは、土壌試料の採取と平行してモニタリングカーを使った空間線量率測定が行われており、測定結果一覧表の備考欄には土壌採取位置に一番近い空間線量率の測定点の番号が記載されています(土壌試料の採取場所の番号は空間線量率の測定点の番号と違ってハイフンが入っているので区別できます)。元データ2の場合は備考欄の測定点番号に対応する緯度経度を「緯度経度情報1」から読み取って地図化に使用しました。
これに対し、環境試料の測定結果には空間線量率の測定点番号が併記されていません。元データ3の3カ所のうち、たまたま1カ所(南相馬市原町区高見町)だけは「緯度経度情報2」で測定結果が報告されていたため「緯度経度情報1」で緯度経度を確認できましたが、残り2カ所は高橋登史朗さん(@toshirot)のGoogleを利用した住所→緯度経度取得ページを利用させていただきました。
注:地図化に先立って緯度経度情報1を利用したあと、誤って下記の3カ所の土壌採取地点の所在地を空間線量率の測定点の所在地で置き換えてしまいました。従って以下の土壌採取地点の所在地の地図上の表記(右側)は元データファイル(左側)と異なります。
田村市常葉町山根→田村市常葉町山根鹿島
双葉郡広野町下北迫→双葉郡広野町下北迫苗代替
伊達郡川俣町山木屋→伊達郡川俣町山木屋大洪

今回の地図には、地表から5 cmまでの表層土中のストロンチウム90(Sr-90)量を土の重量1 kgあたりで表示しています。最も早い時期に試料採取が行われた元データ1の3カ所分(試料採取日3月16日〜3月17日)だけは、土の湿重量あたりの測定値であることが明記されていますが、元データ2と3には湿重量、乾燥重量いずれで計算したか記載はありません。しかし他の固形試料の測定結果(ウラン、プルトニウムを含む)でわざわざ湿重量あたりと明記した報告は見当たらず、湿重量ベースで測定が行われたのは後にも先にも元データ1だけだった可能性が考えられます。従って、元データ2と3の測定値は乾燥重量ベースと見て差し支えないでしょう。
注:「放射性ストロンチウム分析法」(写真付きの分析手順解説はこちら。画面左のリンクを上から下へと順番にクリックして下さい。データが出るまでに時間がかかる理由をおわかりいただけると思います)によれば、土壌中のストロンチウム分析の出発試料は「乾燥細土」とされています。つまりどのみち試料を一旦乾燥してからでないと測定できないのです。採取した土壌試料から植物の根、小石などを除いて一昼夜乾燥(105~110℃)したものが「乾土」、これをさらに乳鉢で細かく砕き、2 mmメッシュのふるいを通したものが「乾燥細土」(詳しくはこちら)。乾土になった段階で重量(乾土重量)を測定し、これを乾燥開始直前に測定しておいた湿重量で割れば乾土率を計算でき、乾土率が出れば湿重量あたりの測定結果を乾燥重量あたりに換算することができるのですけれど(「緊急時におけるγ線スペクトル解析法」 p.9)、元データ1をとったときだけ乾燥前後の重量測定を忘れたのでしょうか?

地図に表示した測定地点14カ所のすべてから放射性ストロンチウム(Sr−89とSr-90)が検出されました(半減期はSr−89が約50日、Sr-90が約28.9年)。
ピンの頭に黒丸が入っているのは、イネの作付け制限指示地域内の測定点です(確認はこちらこちらで行いました)。作付け制限指示地域外は14カ所中3カ所(福島市、二本松市、南相馬市原町区大原台畑)で、いずれも4月中に試料採取が行われたところです。確認中の試料(5月9日以前に採取した土壌試料と、5月6日以前に採取した環境試料)の測定結果がこれから出てくれば、どの程度の距離までストロンチウムが飛散したかわかってくるでしょう。文部科学省は奥羽山脈の西側にはこれまで全くと言っていいほど測定点を設けたことがありませんが、飛散範囲を突き止める上で奥羽山脈の西側からイネの作付け制限判断のために採取された土壌試料の再分析は必須。あるいは現在全国から集まった研究者が進めている県下全域プラス隣接県2400カ所の土壌調査でも、ストロンチウムをきちんと見るべし。また食品中のストロンチウム、特に魚のストロンチウムの分析が今後のもうひとつの重点課題。

測定値の範囲は最小値1.3 Bq/kg(川内村)、最大値250 Bq/kg(浪江町赤宇木椚平)で、2ケタ以上の測定値が出た4カ所はいずれもイネの作付け制限指示地域内でした(浪江町、飯舘村、川俣町)。「放射性ストロンチウム分析法」のp.102にある「付録3 環境試料中のストロンチウム90 濃度」という表には、平成13年度(2001年4月〜2002年3月)に日本各地で採取された環境試料中のストロンチウム90の測定値がまとめられていますが、今回と同じ深さ5 cmまでの土壌中の測定値は平均が2.1 Bq/kg乾土(48検体分、範囲は0.020 ~ 9.2 Bq/kg乾土、「範囲の最小値には不検出の値も含まれる」との但し書きから不検出判定の場合の検出限界値を最小値として扱ったことがわかる)となっていますので、今回の測定値が1 - 2 Bq/kg程度のところは「あることは確かだが量は多くない」というレベルといえるでしょう。

原子力事故後の放射性ストロンチウムの分析で一番注目を集めるのは、一緒に放出される放射性セシウム、とくにセシウムの同位体の中で半減期が一番長い(約30年)セシウム137(Cs-137)との比率です。各測定地点のSr-90とCs-137の割合は、最大値が0.14%(浪江町津島、試料採取日3月17日)、最小値が0.01%(葛尾村、試料採取日5月3日)、14地点の平均値は0.047%となりました。1986年4月のチェルノブイリ事故後のSr-90/Cs-137比が約10%だったのと比べるとはるかに小さな数字です。
【2011.6.14追記】
東京電力が2011.6.12付けで発表した福島第一原発付近の海水中の放射性同位元素分析結果
いずれも試料採取日は5/16。海水中のSr-90/Cs-137比は土壌中(3/15に大気中に大量放出された後雨とともに地上に落ちてきた分が大部分と考えられる)よりはるかに高く、チェルノブイリ事故後の比を超える測定点もあります(測定値はいずれもBq/L単位)。
1-4号機取水口内北側:1600/17000→9.41%
2号機スクリーン海水(シルトフェンス内側):5100/19000→26.8%
3号機スクリーン海水(シルトフェンス内側):7300/66000→11.0%
監視継続とともに沖合でも測定が必要でしょう。放射性ストロンチウムの水産物への影響については、三重大・勝川先生の解説をぜひご覧下さい。

(付記1)日本国内で食品中の放射性セシウムの規制が初めて実際に行われたのは、チェルノブイリ事故後に(ヨーロッパからの)輸入食品を規制するため放射性セシウム総量(セシウム134とセシウム137の合計)の上限を全食品一律370 Bq/kgと決めたときですが、このとき(実測が難しい)ストロンチウムには独自の規制値を設けず、チェルノブイリ事故後に測定された比率をもとにセシウム137には常にその10%の量のストロンチウム90が共存すると仮定し、放射性ストロンチウムの影響を放射性セシウムの影響に含めて規制する形で規制上限値が決められました。この考え方は、原子力安全委員会の指針「原子力発電所等周辺の防災対策について」の中の「飲食物摂取制限の指標」の項が1998年11月に改訂され(*)、放射性セシウムの摂取制限指標が新しく設けられたときもそのまま引き継がれています。この「飲食物摂取制限の指標」が、食品衛生法上の暫定規制値として平成23年3月17日以降現在に至るまで使われているわけです。
*)このときのいきさつと、摂取制限の指標の設定根拠が次の論文にまとめられており、無料で読むことができます。
須賀新一, 市川龍資. 防災指針における飲食物摂取制限指標の改定について. 保健物理 35(4), 449~466(2000)
ただこの1998年の改訂のとき、放射性セシウムの摂取制限指標の制定にあたった人たちは、輸入食品については1986年以降放射性セシウムの規制基準値がすでに存在し、国内で適用されていたことをご存じなかったようで、上の論文には輸入食品のセシウム規制基準の話は全く出てきません。私ならそういう基準の存在を知ったら当然見比べますけれど、(当時の)厚生省の決めた食品の基準なんて我関せずという了見が通っていたとすれば、縦割りもここに極まれリです。

(付記2)食品中の放射性ストロンチウムをセシウムと抱き合わせにせず、独自基準で規制している国もあります。
米国FDAの輸入食品用基準(Sr-90用):160 Bq/kg
欧州原子力共同体(EURATOM)の原子力事故後の食品中許容限度(Sr-90用、ただし平常時用ではなくあくまで緊急時用の基準):乳幼児用食品 75 Bq/kg、乳製品と液体食品(飲用水を含む)125 Bq/kg、その他の食品750 Bq/kg

(付記3)
生物の体の中でのストロンチウムがカルシウムと似た振る舞いをすることはよく知られ、カルシウムと入れ替わって骨に蓄積されβ線を放出する内部被曝源として恐れられていますが、土壌中のふるまいについて、日本土壌肥料学会がまとめを出しています。放射性セシウムが土壌中の粘土鉱物である雲母と結合して足止めされ、地表から下に向かってなかなか移動しない(詳しくはこちら)のに対し、放射性ストロンチウムは土壌中に足止めする物質がないので水に溶けて下へと広がりやすいという違いがあります。知っておくとよいことは、ストロンチウムの分布(セシウムと似ている)がイネの中では部分ごとに大きく違うことです。米として食べられる部分(可食部)を1とするとヌカで29倍、モミガラで24倍、ワラで100倍となります。玄米を精米して白米にすると、ストロンチウムの量を0.5%/2.3% = 0.21、つまり約1/5に減らすことができるのです。またキャベツの場合、「玉」を作らない外側の葉と内側の巻いて「玉」になった部分でストロンチウムの存在量を比べると、外側91対内側9という報告もあります。外側の葉を捨てて中を食べればいいことになります。ただし、捨てた外側の葉をウサギにやるのはやめたほうがいいでしょう。

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